東弁協叢書
第19弾 イメージ
冨永とみなが忠祐ただひろ(東弁)

相続法はこのたび、約40年ぶりとなる大改正がなされました(2020年4月全面施行)。その中には、法曹界で長く"通説"といわれていたものを抜本的に改めた部分も多く、弁護士としての実務にも大きな影響を及ぼすことは間違いありません。本書は改正相続法の概要をわかりやすくまとめたハンドブックで、コンパクトに要点をしぼり、実務に及ぼす影響に重点をおきました。A5判約150ページと持ち運びも苦にならない文字通りのハンドブックであり、巻末に改正相続法新旧対照表も付けてあるので、この本で概要をご理解いただいた上、より専門性の高い文献や論文にあたっていただくなど、さらなる学習の入り口にしていただきたいです。
今回改正されたポイントとして、「配偶者居住権」の創設、「特別寄与制度」の創設、遺留分減殺請求権の金銭債権化と改称「遺留分侵害額請求権」、公的機関(法務局)における自筆証書遺言の保管制度の創設、預貯金債権の遺産分割前払戻しの容認制度創設、遺留分や遺留分侵害額の算定方法の整備、遺言制度の利便性向上、遺産分割や相続の効力の見直しなどがあります。
「配偶者居住権」は、配偶者を亡くした方のその先の暮らしをどう支えるか、従来の配偶者相続分増加の考えから、これまでの住居に無償で居住できる権利の創設に至りました。とはいえ、配偶者居住権を相続分としていくらに算定するのか、その運用はこれからです。
また、これまでは相続人ではなかったいわゆる「長男の嫁」の介護等の貢献度を想定した「特別寄与制度」の創設もあいまって、

今後相続は複雑化し紛争性も高まり、今より長引くことが予想されます。
実務家としての弁護士の役割が重要になってくる一方、より正確な知識と的確なアドバイスが求められ、きちんと勉強していないと遺産分割協議の業務に対応できないかもしれません。
とりわけ、「遺留分減殺請求権」が「遺留分侵害額請求権」と改称され、金銭債権化に舵を切ったことで、遺留分を請求してきた場合、これまでなら一旦自宅を共有にするなど物権的な処理が可能でしたが、それができなくなります。一方で配偶者居住権も創設され、自宅不動産以外に金融資産がない場合、逆に生活を揺るがす事態になる可能性もあり、弁護士は相続が決まる前から相談に乗る必要が出てくるのではないでしょうか。その意味で特筆すべき改正が、法務局における自筆証書遺言の保管制度の創設です。公的機関が遺言書を預かってくれる安心感から、自筆証書遺言を書く人が増えると予想できます。どこに預けるか迷い、「まだいいや」と重い腰をあげられなかった方々が遺言書を書くようになると、弁護士にとってはそのお手伝いや遺言執行者としての業務が増えます。これからはホームドクターならぬホームロイヤーがなくてはならぬ存在になっていくと思います。
改正相続法は施行されたばかりでまだ流動的なところがありますが、実務に下したときの姿をいち早く描くことを目指しました。未来予想図の一つとして、今後の遺産相続業務の参考にしていただければ幸いです。

東京都弁護士協同組合事務局
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